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僕の心は、彼女の硬い水面に叩きつけられる。
「今アナタは、何を目指すために紅くなろうか、それを探しているところなのよ。まだ白いままの、色が付く前の紫陽花なの。それに、仮に青く色が変わっていても、後から色を変えることはできる。紫陽花は、またの名を七変化とも言われてるの。後からでも色を変えることができるのよ。それに、花の時期も長い。何かを始めるのに遅すぎるということはないし、アナタはまだまだ、これからなのよ」
将来のこと。そんなこと、今までに僕はマトモに考えたことがなかった。クラスメイトとそんな話をするのは気恥ずかしいし、両親や先生とするのも堅苦しい。だけれど、彼女とは、そんな話ができる。
それからの日々は水の流れの様に流れた。人と話すのをこれほど楽しいと思ったことはない。彼女の話は、どれも、とても興味深い話だった。このあたりの古い話、民話、自然や科学について。彼女は恐ろしいほど博学だった。だが、そんな彼女でも、世間の流行りには疎かった。新しいゲームはおろか、クラスの女子たちの間で当たり前のように行われている小さなお洒落にすら無知なのだ。だけれど、そのぶん僕らは、お互いにお互いの知っている話を話して、お互いに知識と交流を深めていった。魚心あれば水心、とは、正にこうした事を言うのだろう。彼女は、魚である僕の気持ちを正確に汲みとってくれる水だ。そして、その水は僕の想いに応えてくれている。自惚れではなく、そう確信できたのだ。
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