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その日のお昼前、室長が言っていた通りに渉さんがビルの最上階に降り立った。
……次期社長。
室長からは遠野社長と同じように対応するように指示されている。
彼の冷たい声と、愛想のない言葉の数々は忘れて、私は仕事へと気持ちを切り替える。
渉さんはエレベーターを降りてすぐに、秘書室に顔を出した。
「菊森、ちょっと来い」
渉さんは入り口で一番奥の室長を呼び、その後視線を私に向けて、顎を突き出しながら私に声をかけた。
「コーヒー」
「……はい」
室長に対する偉そうな態度を目の当たりにして、変な間をつくりそうだったが何とか返事をして席を立った。
渉さんと室長は社長室るのを確認して、理央と奈美が小声で声を掛けてくる。
「あの人が遠野社長の息子さん!? 全っ然イメージ違うんだけど」
「ホント、ニコリともしなかったし、室長にあの態度。顔がイケててもアレはないね。あの人が社長? ……大丈夫なわけ?」
おそらくこの二人でなくても社員なら誰でも同じ思いを抱くだろう。
「……ははは。大丈夫じゃなきゃ困るけど。私、行くね。コーヒー遅かったらまた何か言われそうだし」
私は二人に言うと、急いで給湯室に向かった。
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