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◆◆ side 望愛 ◆◆
渉さんが支払いを済ませてくれた後、私が着替え直すためにもう一度試着室へ向かおうとすると、女性スタッフが渉さんにコーヒーのおかわりを出すのを見かけた。
背中から聞こえた声に一瞬耳を疑った。
「ありがとう。」
渉さんは女性スタッフにごく自然にそう言った。
足を止めて振り返ると渉さんと目が合った。
「なんだ?」
「…いえ。」
私は視線を伏せながら小さく答えた。
すぐに振り返って、私は高いヒールでふらつきながら奥に急いだ。
試着室のカーテンを締めて、壁にもたれる。
…渉さんて……
私以外にはあんな風に言うんだ…。
…私って…
…そんなに嫌われてるのかな……。
カーテンの皺を見つめながら、心が沈んでいく。
「ノアちゃん、一人で脱げる?」
カーテンの向こうから千草さんの声が聞こえたので壁から体を起して明るく返事をする。
「はい、大丈夫です!」
急いで着替えて、ドレスの荷造りをしてもらう。
その間、渉さんのいる待合で彼と一緒に待っていたけれど、覗いた渉さんのカップにはまだコーヒーが残っていた。
ミルクの入ったベージュのコーヒーを見つめて、さっきの渉さんの『ありがとう』を思い出していた―――。
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