爪痕(ツメアト)-1

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◆◆ side 渉 ◆◆ 『…俺の就任よりも、親父の回復の方がよっぽどうれしそうだな。』 そんなことが言いたいんじゃない。 なのに、昨日のあの塞ぎ込んだ眼が、今朝になってまたいつもと変わらない眼差しを向けてくると、 それが俺の冷静さを欠く。 コイツをこんな風に一晩で変えたのは、親父と… …菊森。 『…親父が来るんだったら、準備はしっかりやってくれそうだな。…さすが、親父の力はすごいな。』 そうじゃない。 そんなことを言いたいんじゃないのに。 口が勝手に動くんだ。 彼女が部屋を出る前、今日は言おうと思っていたその一言を喉元まで引き上げる。 『コーヒー、ありがとう。』 ……どの口が言うんだ? 俺の口からは乾いた咳払いしか出てこなかった。
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