爪痕(ツメアト)-1

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「菊森。俺とコイツはちょっと出掛けてくる。悪いが、誰かを迎えに寄こして帰ってくれ。車は借りるぞ。」 「…私も一緒に参ります。」 「いい。コイツのどうしようもない要件に無駄に時間を使うな。最後に細かいところを確認してから帰ってくれ。」 「…はい。わかりました。」 渉さんと室長の会話を聞きながら、少しも入る隙がなく、私はただ黙って聞いていた。 …コイツのどうしようもない要件…。 …無駄な時間…。 反論したいけれど、反論出来る空気ではない。 ただ、心配そうに見つめる室長の視線だけが私に向けられていた。 その重なった視線を断ち切るように渉さんが短く言った。 「行くぞ。」 「…はい。」 私は室長に不安げな視線を送った後、小さく会釈して渉さんを急いで追った。
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