爪痕(ツメアト)-1

34/39
3052人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
「あ、あの、初めまして。ずっと遠野会長の秘書をさせて頂いてました、桐谷です。会長には本当にお世話になってます。とてもよくして頂いて…。」 そこまで言うと、千草さんが視線を少しずらして、渉さんに視線を向けた。 そこには明らかに不機嫌そうな渉さんが私を睨んでいた。 「あ、あの、今は、渉さん、あ、いえ、遠野社長の秘書で、社長にはお世話になってます。」 「…そんな風に付け足して言わなくてもいい。別にお前の世話なんてしてないからな。」 「まあ! 何!? その態度!? そんな風だから桐谷さんから嫌われるのよ。あ、下のお名前は?」 「…望愛(ノア)です。」 「まあ、かわいい名前。じゃあ、ノアちゃん、こんなひねくれ者はほっといて、行きましょ。」 「え、あ、はい? あの…」 私は千草さんに手を引かれてさらに奥に進んだ。 渉さんは私たちの方を見向きもしないで、仏頂面(ブッチョウヅラ)のまま待合のソファに腰を下ろした。 …千草さんの笑顔も …渉さんの不機嫌さも 何もかもが不安なまま、私はなされるがままになった…。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!