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「あ、あの、初めまして。ずっと遠野会長の秘書をさせて頂いてました、桐谷です。会長には本当にお世話になってます。とてもよくして頂いて…。」
そこまで言うと、千草さんが視線を少しずらして、渉さんに視線を向けた。
そこには明らかに不機嫌そうな渉さんが私を睨んでいた。
「あ、あの、今は、渉さん、あ、いえ、遠野社長の秘書で、社長にはお世話になってます。」
「…そんな風に付け足して言わなくてもいい。別にお前の世話なんてしてないからな。」
「まあ! 何!? その態度!? そんな風だから桐谷さんから嫌われるのよ。あ、下のお名前は?」
「…望愛(ノア)です。」
「まあ、かわいい名前。じゃあ、ノアちゃん、こんなひねくれ者はほっといて、行きましょ。」
「え、あ、はい? あの…」
私は千草さんに手を引かれてさらに奥に進んだ。
渉さんは私たちの方を見向きもしないで、仏頂面(ブッチョウヅラ)のまま待合のソファに腰を下ろした。
…千草さんの笑顔も
…渉さんの不機嫌さも
何もかもが不安なまま、私はなされるがままになった…。
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