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◆◆ side 渉 ◆◆
次々に挨拶に並ぶ客と言葉を交わし、機械的に隣のアイツを紹介する。
俺は気付いていた。
俺に挨拶する前から、男の視線は横のアイツに向いていたことを。
もちろん、俺が話している間は俺を見ているが、明らかにアイツを気にしていた。
俺がアイツを紹介すると、俺には向けない笑顔をアイツに向けた。
その笑顔に下心が見え見えなのを当のアイツは全く気付かず、満面の笑みで応対している。
それを受けた客は俺に下品な笑いを含んでこう言う。
「こんな美人の秘書がいたら、仕事もはかどりますな。あははは。」
俺は愛想笑いで返すしかなかった。
客を案内し終えたアイツは男の笑顔を優しさと勘違いしながら視線を遠くに飛ばしていた。
そんな飛んだ視線の先に…菊森がいた。
菊森の存在を確かめると、アイツの顔が一層和らぐ。
一方、俺の胸の中はざわついた。
「おい。」
気付いた時にはアイツを呼んでいた。
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