爪痕(ツメアト)-2

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…未経験…。 私の最大のコンプレックスをあんな風に言われてしまうと、こんな自分が嫌でたまらなくなる。 すると、室長の歩みがどんどん遅くなって、ついには止まってしまった。 「…室長?」 首をかしげた私に室長が一歩歩み寄った。 「…桐谷くんらしくないな。…そんな風に言わないでくれ。ましてや、男の前でそんなこと絶対に言わないで欲しい。特に私以外の男の前では。」 そう言って再び歩き出した。 私が室長を追おうとすると、急に室長が振り返った。 「…もちろん、私が男ということも忘れないで欲しい。そんな言葉を平静に聞き流せるほど、私は大人でも紳士でもない。」 室長はまた前に向き直り歩きだした。 その歩調は私に合わせた時よりも少し早くなっていた。
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