爪痕(ツメアト)-2

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それからのアイツは秘書としては十分すぎるほど俺を立てて、そして客に気を配っていた。 しかし、決して俺とは目を合わせようとしない。 俺の中に生まれた小さな罪悪感が、じわじわと大きくなり始めていた。 …けれど 『悪かった。』 その一言がどうしようもなく遠かった。 俺への挨拶の列がやっと途切れると、菊森が俺を呼びに来た。 これからは親父が客に挨拶しながら俺を紹介して回るらしい。 まだまだ先は長かった。 俺が合図するまでもなく、アイツは視線を下に向けたまま歩きだし、黙ったまま俺の後をついてきた。 親父の横に俺が並び、その一歩後ろにアイツ。 菊森はその間に別の準備で席を外した。 挨拶の合間に俺とアイツが交わす言葉。 親父とアイツが交わす言葉。 同じような内容なのに、アイツの表情は全く違っていた。 胸の奥がズキンと痛む。 …信頼関係…。 俺は初めてそれを目の当たりにした。
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