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俺はいくぶん早いペースで酒が進んでいた。
挨拶する相手が変わる度に小さなカクテルグラスを合わせて、それを空にしていた。
酒には強い方で、カクテルのようなものには酔わないと思っていた。
実際、よってなどいなかったが、少し疲れたこともあって、手洗いのために会場を一度出た。
アイツに断りを入れる時にも、アイツは俺を見ずに視線をまっすぐに向けたまま頷いていた。
今までに見たことがない…硬い表情だった。
…自業自得だと言うのに、自分のセンチメンタルさに自嘲した。
用をたして、洗面台の汚れ一つない鏡に向き合った。
どこか息苦しくてネクタイを緩めた。
…目を合わせないアイツ。
考えてみれば、俺はいつだってアイツにそんな態度しかとってこなかった。
アイツがどんな思いだったかなんて、全く考えもしなかった。
アイツに立てた爪が、
俺自身を抉(エグ)っていた。
俺は大きく息を吐き出し、ぐしゃぐしゃに乱した髪の毛を直すと、ネクタイを素早く直して足早に会場に戻った。
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