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ベッドの脇で待っていると、アイツより先に菊森が入ってきた。
「…おはようございます。」
菊森の何かを含んだような挨拶に俺も答えた。
「ああ。」
菊森の視線は普段と変わらないように見えたが、心の中じゃ俺を睨みつけているに違いない。
「…どうしてここに?」
率直な疑問をぶつけてみた。
「…それはこちらもお聞きしたいんですが…だいたい想像はつきます。私は昨日、お二人に何度か電話を掛けたのですがどちらも繋がらず、最後にもしかしたらと思ってフロントで聞いたんです。そしたら桐谷くんがカギを手にしたと聞きまして。…まあ、それを知った時には遅すぎたんですが。」
そこまで言って、菊森は後ろのアイツに体を向けた。
「…桐谷くん。携帯はどうしたんだ? 何度も掛けたが繋がらなかった。」
菊森の声色は穏やかなようで、どこか問い詰めるような響きがあった。
「…あの…多分…、すみません! 昨日、充電が十分に出来てなくて。きっと電池切れになっちゃったんです。」
菊森は小さな息を吐きだすのと同時に肩を下げた。
「…連絡がつかないということは秘書にとって致命的だ。これからは十分に気をつけなさい。」
「…はい。申し訳ありませんでした。」
アイツは風船がしぼんだようにしゅんとなっていた。
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