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その顔は明らかに寝不足だった。
「…眠れなかったのか?」
菊森が答えないのでもう一言付け足した。
「…心配…だったのか? …朝飯も食えないほど。」
俺はからかうように口元で笑った。
「…心配していないと言えば嘘になります…が、社長と彼女はそういう関係ではないでしょう? それは確信していましたから。」
俺の笑いなど全く気にしてない様子で菊森は自信ありげに答えた。
その時の菊森の口もまた、俺と同じような笑いを含んでいた。
「さあ、桐谷くんもそろそろ着替え終わっている頃でしょう。ラウンジに行きましょう。」
立ち上がってドアに向かった菊森が俺のためにドアを開けた。
菊森と二人でこの部屋を出ることになるとは思っていなかった。
こんな風に菊森と部屋を出ると、アイツと二人でこの部屋で一夜を過ごしたことが、まるでなかったことのように思えてくる。
俺は菊森を見て思う。
それが…お前の狙いだったのかと。
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