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「では、お疲れさまでした。おやすみなさい。」
私はもう一度おじぎをしながら渉さんに言うと、「ああ。」と、いつも通りに短い返事が返って来た。
そして、私がドアを閉めて離れると、車がゆっくりと動き出した。
だけど、すぐに車が停まって窓が開くと、渉さんの声が飛んでくる。
「おい、桐谷。」
…え……?
「忘れ物だ。」
そう言って渉さんは私にハンカチを放り投げた。
私はぼんやりとそれをキャッチして動けずにいた。
『キリタニ』
…聞き間違いじゃない。
渉さんが私の名前を呼んでくれた……。
呼んでくれた!
「…社長! おやすみなさい!」
嬉しさと少しの興奮で思わず声が上ずってしまった。
渉さんの車が行ってしまうと、アパートの階段を軽快な足取りで上っていた。
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