距離-2

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「では、お疲れさまでした。おやすみなさい。」 私はもう一度おじぎをしながら渉さんに言うと、「ああ。」と、いつも通りに短い返事が返って来た。 そして、私がドアを閉めて離れると、車がゆっくりと動き出した。 だけど、すぐに車が停まって窓が開くと、渉さんの声が飛んでくる。 「おい、桐谷。」 …え……? 「忘れ物だ。」 そう言って渉さんは私にハンカチを放り投げた。 私はぼんやりとそれをキャッチして動けずにいた。 『キリタニ』 …聞き間違いじゃない。 渉さんが私の名前を呼んでくれた……。 呼んでくれた! 「…社長! おやすみなさい!」 嬉しさと少しの興奮で思わず声が上ずってしまった。 渉さんの車が行ってしまうと、アパートの階段を軽快な足取りで上っていた。
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