距離-2

34/35
前へ
/35ページ
次へ
――翌朝。 俺が出社して間もなく、彼女が軽快に秘書室のドアを開けた。 昨夜遅かったというのに、デスクに向かう足取りは軽い。 「おはようございます。」 「おはよう。」 彼女の笑顔がいつも以上にまぶしく見えるのは気のせいだろうか。 「昨日はご苦労さま。大変だったね。」 平静を装うのも一苦労だ。 「いえ、私は全然大丈夫なんです。ずっと運転もお任せしてましたし…社長の方がずっとお疲れだと思います。」 渉を気遣うセリフに胸の奥をチクリと刺される。 「…そうか。…で、今日もまた嬉しそうだが…昨日言ってた…“報告”とやらを聞いてもいいかな?」 その時だった。俺が彼女から返事をもらう前に渉が秘書室に顔を覗かせた。 「桐谷、コーヒー。」 そう言い放って渉は社長室に進んだ。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2762人が本棚に入れています
本棚に追加