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◆◆ side 渉 ◆◆
「失礼します。」
いつもの弱いノックの後にアイツが部屋に入る。
待っていたコーヒーの匂いが鼻をくすぐると、待ちきれずに手を伸ばしたくなる。
アイツが脇からデスクにコーヒーカップを置くと、それをすくい取るようにすぐにカップを手にした。
コーヒーに口をつける前に、その香りを大きく吸い込んでからコーヒーを口に含む。
俺好みの香りと味が疲れたカラダに染みていく。
「…ウメエ。」
マジでコイツのコーヒーはなんかホッとしちまうから不思議だ。
俺の言動にアイツが小さく笑った。
俺にわからないようにしていたつもりだろうが、しっかりバレてる。
「…そういやあ、さっきの続きだったな。」
俺はカップをソーサーに戻した。
「…つ、続き?」
アイツがお盆を胸の位置で握りしめて一歩後ずさる。
「…そうだ。」
俺の言葉と不敵な笑みにアイツの顔が赤くなる。
「…社長…あの、やはり、仕事とプライベートは…分けるべきです。そう、分けるべきですよ…。」
「じゃあ、プライベートならいいんだな?」
「…そ、そんな…。」
「いいんだな?」
俺はコーヒーをまた一口、口に含んだ。
「あ、あの…! 社長、そういえば、賭けに勝ったのは私ですよ!? 雨…降ったんですから。だから…。」
「…だから?」
俺がさらに一歩アイツに近づくと、
部屋のドアがノックされた。
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