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意気揚々と進む私たちだったけれど、金曜の夜の店はどこもかしこも会社帰りのサラリーマンやOLたちで溢れていた。
やっと見つけたのは立ち飲みの小さなお店。
だけど私たちは既にお腹は焼き鳥で満たされているし、本当の意味での飲み直しが出来ればそれでよかった。
「立ち飲みって…私も初めて。あ、私も飲んじゃおっかな。」
なんだか気分がよくなって、私も弱いくせにアルコールを口にしてみたくなってしまう。
私たちは二人とも果肉入りのゆずサワーを頼んで大きく乾杯した。
「カンパーイ!」
「かんぱーい!」
力強くぶつかるグラスの音は、夜の街の騒々しさにも負けない。
「あーーー。なんだかスッキリしちゃった。」
野崎さんはグラスから口を離して言った。
彼女の表情は柔らかく、まるで何かから解放されたかのようだった。
「…なんで…好きだったんだろ…。」
今度の彼女は切なげだった。
「理屈じゃ…ないもんね…。」
恋愛経験の少ない私がそんなことを言って、自分で恥ずかしくなりながらも、本気でそう思っていた。
「…また…、好きな人…、出来るかな。」
彼女は私に答えを求めているようだった。
「…できるよ。絶対。」
私はこう付け加えた。
「野崎さん、これからも仕事、頑張ってみるんでしょ?…もしかしたら…初めての社内恋愛ってのもあるかもよ?」
「…社内恋愛?」
「そう。」
「…あ。桐谷さんも…そうだもんね?」
「…あ、それは…。」
そう言われると妙に恥ずかしい。
「あ、照れるな。照れるな。そうだ!私、そっちも頑張ってみよ!」
彼女は明るい笑顔を取り戻していた。
それからお酒の弱い私は、
最初の一杯のゆずサワーで
彼女と何度も何度も乾杯をした。
今日は最低で…
最高の日になった。
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