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「え?」
「え?」
母と私の声が重なった。
「そ、そんな、渉さん。急すぎますし、今日は会長は…。」
「親父?…いるんじゃねえの?」
「だ、だったらなおさら…。」
「別にカンケーねえだろ。」
「か、関係あります。それに…。」
思わぬ展開に私が慌てる。
お母さんが渉さん…会長宅に…!?
そんなのありえない。
その時、うろたえる私と強引な渉さんの会話に落ち着いた母の声が入り込む。
「うふふ。渉くん。ありがとう。…でも、今日は本当に急な話だし遠慮させていただくわね。」
そこで母は話を区切って視線を渉さんから私に移した。
母の顔は見たことがないほどに優しく…そしていたずらっぽさを含んで微笑んでいた。
そして、その表情のまま視線を渉さんに戻した。
「その代わり…私が正式にあなたのお父様に挨拶するべき日が来たら…その時はちゃんと行かせていただくわね。」
母の言葉の意味を渉さんは瞬時に理解したみいだった。
「…わかりました。そんなに先のことではないかもしれませんよ。」
「了解。じゃ、行くわね。…お邪魔しました。」
母は行ってしまった。
私は二人の会話に入れなかったけど…
母が来た時の驚きも忘れて…
渉さんが最後に残した言葉に
鼓動が早まるのを感じていた。
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