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「はあ?行くって本気かよ?」
「当然です。」
「はあ?俺が来てんのに?」
俺はアイツが『行く』と言ったことがまた気に入らなかった。
なのにアイツはなんの迷いもなくこう言った。
「…渉さん。今の私たちは…その、“プライベート”ですよね?」
「…だから?」
「室長からの電話は“仕事”です。私は社長の秘書ですが、その前に室長の部下なんです。上司から仕事の呼び出しがあれば行くのは当然ですよ。」
…まるで説教だ。
そんなことはわかってる。
…百も承知だ。
だけど…
菊森のところに行かせたくない幼い自分。
さっきの続きが欲しくてダダをこねるガキな俺。
そんな子供の俺がまだアイツを引き止めたくて悪あがき。
「…親父も夕飯までには戻ってくる。今日の飯は親父も、一緒に作るサワさんも楽しみにしてる。」
一番楽しみにしてるのは…
…この俺だろうけど
それはもちろん言えなかった。
俺の言葉を聞いて、アイツは眉を下げて優しく笑った。
まるで本当の子供を相手にするみたいに。
「…大丈夫です。予定通りに食事は作りにお邪魔します。…渉さんは…これからどうしますか?そんなに時間はかからないと思いますけど、もしよかったらここで…待ってますか?…何もないですけど。」
…本当は俺も一緒に会社に行って、菊森と二人にさせるのを避(サ)けたいとこだが、そこまでガキになるのはやめておこう。
俺にもそれなりにプライドってものはある。
…そう思うと、さっきはコイツ欲しさにバカ丸出しだったな俺。
…カッコわりい。
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