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「お疲れ様です。」
私は最上階の秘書室にいた。
休日の今日、他の部署での休日出勤はあるものの、最上階には室長と私だけ。
しんと静まり返ったフロアで私の声が妙に響いた。
夏でエアコンも入れているので、ちゃんとドアも閉める。
最近は社内にいても室長と二人きりになることがなかったので、どういうわけか少し緊張していた。
「お疲れさま。休みのところすまない。…渉と一緒にいたのか…?」
…聞かれるとは思っていたけど、答えを準備していなかったので変にドギマギした。
「…あの、夕べ、営業の野崎さんと食事に行って…飲みすぎちゃって…あの、それで、いろいろ…。」
関係ない野崎さんの名前まで出して、私ってば何を言っているのか…。
そんな私の説明で何かがわかるはずもないのに、室長は笑って言ってくれた。
「わかった。わかった。…じゃ、早速いいかな。作ってほしいのは…。」
室長はすぐに仕事モードに切り替えて、資料の説明を始めた。
聞いて、なるほど。
確かに私が作った方が効率が良くて早く仕上がりそうな気がした。
私はイスを引いてデスクのパソコンを立ち上げた。
途中、進み具合のチェックに室長が私のパソコンのデスクトップを覗き込む。
室長の顔が寄るたびに、私はほんの少しだけ自分の体を退(ノ)けた。
…別に、意識してるわけじゃないけど…
最近、プライベートでの室長を垣間見るようになって、
室長は私の中で
単なる上司から…
…男の人になっていたから。
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