使者-2

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私が秘書室に戻り、室長のデスクにコーヒーを置くと、室長が数枚の用紙をデスクに置いて視線を資料から私に向けた。 「…誤字が一点。」 「…あ、すみません。」 「いや、時間がない中での出来栄えとしては上出来だ。やっぱり桐谷君を呼んで正解だったな。」 「…そんな。自分でも確認したつもりですが…すみません。すぐ直します。」 「いや、後でいい。せっかく入れてくれたんだ。コーヒーの後にしよう。そこ、座って。」 「…はい。」 そことは、室長のデスクの一番近くの理央の席だ。 私の席は理央・奈美・私の並びで室長からは一番遠い席。 遠野会長の秘書をしていた頃から、すぐに対応できるように私がドアの一番近くの席になっていた。 理央の席に着き、室長がコーヒーに口をつけたのを確認してから私もカップを口に運んだ。 「…休日に桐谷君のコーヒーを飲めんなんて、ちょっとした贅沢だな。」 「…そんな。コーヒーなんてその辺のコーヒーショップの方がずっとおいしいのが飲めますよ。」 会社の近くにだって、人気のコーヒー専門店がある。 でも、室長は言った。 「いや。俺は桐谷君が入れたのが一番おいしいと思ってる。…ずっと前からね。」 室長は口元でゆったりと笑った後、また、コーヒーを一口すすった。 「…そうですか。」 私は変な返答をして、カップで顔を隠すようにコーヒーをすすった。 このコーヒーが… …そんなにおいしいんだろうか。
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