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顔を赤らめて俯(ウツム)いたまま手を動かすアイツ。
そんなアイツをただ見ていた。
「あ、お前、今日はフリフリのじゃねえんだ?」
「あ。」
そこでアイツはやっと顔を上げた。
「…今日は自分のを持って来たんです。佐和子さんのフリフリは…やっぱりちょっと…恥ずかしいです。」
「ふーん。俺はあれでも良かったけど。ま、それもいいけど。」
今日はアイツの私物で、黒のシンプルなエプロンだった。
どんなものだってかまわねえ。
今日は菊森もいねえし、親父もいねえ。
俺だけが独占出来ればそれでいい。
そう思っていると、アイツが俺の言葉に照れたのか、話を逸(ソ)らそうとして口を開く。
「会長たち…そろそろでしょうか…。」
「『会長たち』?」
「室長が会長を送ってみえるんですよね?…室長もご一緒にお食事されますか?」
「はあ?またかよ?」
思わず本音が漏れた。
また菊森かよ…。
とは思うが、流れとしては菊森も一緒にというのが自然かもしれねえ。
それに、どうせ親父が食べて行けと言うに決まってる。
…親父のヤツ…もっと息子のことを大事にしろよ。
俺は心の中でボヤキながら、それなら今の内にコイツをおおいに独占してやろうと思った。
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