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渉さんに連れて行ってもらったのはずいぶんと古い建物の蕎麦屋だった。
お店自体は古そうだけど、それとは逆にのりのきいた真新しい暖簾(ノレン)が、そのお店が老舗(シニセ)であることをうかがわせた。
私は渉さんの後について、暖簾をくぐった。
中はすでに人でいっぱいだった。
カウンターの中から顔を見せた店主らしき男性が渉さんを見ると表情を明るくした。
「おう、渉!」
店主は手招きと視線で私たちを呼んで、一人のお客さんの席をずらして、カウンターの隅に私たちの席を用意してくれた。
カウンター越しに出してくれたのは熱いお茶。
それと引き換えに渉さんは私たちの昼食を注文した。
「いつものヤツ。コイツも同じでいい。」
「へえーえ。渉が彼女をねえ。…蕎麦は一人で食べるのが一番じゃなかったのか?」
「…うるせえな。早く作れよ。」
「そっちこそうるせえなぁ。」
私は二人の会話に唖然(アゼン)としていた。
まずは…
「…渉さん、ここ…。」
「あ、このオヤジ。親父の同級生。実は親友らしい。」
「え、あ、そうなんですか?」
「そうなんだよ~。可愛い子だね。名前は?」
急に話に入ってくる店主さん。
「あ、あ、桐谷です。桐谷望愛です。」
「そうかあ。望愛ちゃん、渉のことよろしくね。クソ生意気だけど、根はかわいい奴だから。あ、渉が悪さしたら俺に言ってね。ぶん殴るから。」
「…は、はい…。」
とりあえずの返事をするけど、さっきから感じる違和感。
…お店の雰囲気と…店主さんのイメージが…
…違いすぎる。
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