使者-3

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私はしばらくぼんやりしてしまったようだ。 廊下をこっちに向かうスリッパの音が聞こえてくる。 「おい。どうした?」 渉さんだった。 「…あ、いえ。何でもないです。」 残像のように残る室長の影を振り払い、渉さんに顔を向ける。 「肉。肉。早く肉焼こうぜ。」 「…はい。もう少し時間をおいてからですよ。」 私は渉さんのそばに寄った。 渉さんは私の手から会長のバッグを取ると笑った。 「親父の鞄。現役の時から比べるとずいぶん軽くなったな。何も入ってねえんじゃねえの?」 「そんなことないですよ。渉さんのに比べたら…そりゃ、少しは軽いですけど、やっぱり重たいです。」 「そうか?」 「はい。…むしろ、渉さんのバッグに何が入ってるのか知りたいですよ。」 「…秘密。」 「秘密!?」 「…毒薬とか入っているし。」 「ど、ど、ど、毒!?」 「そうだ。お前、変なこと言ったら殺すからな。」 「・・・。」 「本気だからな。それより、肉だ。肉!」 渉さんはスリッパを擦(ス)って、廊下を先に歩いた。 私はその背中を見つめて… その距離が離れないように背中を追った。
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