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渉さんの表情を横目に、私もお蕎麦に箸を入れた。
「おいしーーー!」
濃すぎないつゆのおかげでお蕎麦の香りがして、味もそのままに堪能できる。
「お蕎麦って、こんなにおいしかったんだ!」
感動する私の横で渉さんは呆れる。
「…バカか。」
するとカウンターの向こうから店主さんの軽やかな声がそれを遮る。
「…バカはお前だ。お前の彼女、いいねえ。やっぱ素直な子にはわかっちゃうんだよね、ここの味が。おじさん、望愛ちゃんのファンになっちゃったよ。」
…そこからしばらく、渉さんと店主さんのコントのようなやり取りが続いた。
私はその間に黙々と箸を進め、天ぷらもアツアツのうちにさっくりとした食感を味わった。
本当においしい。
私はこのお店で自分の中に何かが充電されていくのを確かに感じた。
お腹が満たされたのと…
『…渉さんが初めて彼女を連れてきた…』
私は渉さんの彼女ではないけれど…
店主さんの言い方では、女性が一緒に来たのが初めて…という意味に感じ取れた。
そのことに、お腹が満たされたこととは別の理由で顔が緩んでしまう。
私たちは店主さんにお礼を言って、席を立った。
店主さんは最後まで、今日はサービスだと言っていたけれど、結局渉さんは、天ざるの料金よりも多いお代を置いて店を出た。
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