使者-3

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それから俺たちはごく普通のスーパーで買い物をした。 カートは前のように俺が押す。 …実はこれを楽しみにしてた…なんて口が裂けても言えねえ。 スーパーに入ると、今までメニューのことで顔を曇らせていたアイツの顔が見る間に晴れていく。 「あ、渉さん。これ、安いですよ!これで何か出来るかなあ。」 「あ、これも。あのスーパーよりも安い!」 …おばはんか。 とも思いながら 『渉さん、渉さん!』 そう言って俺を手招きする仕草がたまらねえ。 「会長はどんなのが好きかな…。」 「渉さんはこれ、好きですか?」 俺たちのことを思って頭の中でメニューを考えてるアイツに顔の締りがなくなっていくのがわかる。 …わかっているのに、どうしようも出来なかった。 そして、アイツの頭の中の晩飯の構想は全くわからないまま、カートはいっぱいになり、精算を済ませて店を出た。 少し車を走らせ、近くの洋菓子店でデザートにマカロンを買った。 カラフルな色合いにアイツがはしゃぐから、全部の色を買い込んだ。 遅めの昼飯の後の買い物をして、家に着いたのは4時過ぎだった。
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