雲行き-1

34/40
2842人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「ここはね、役員がメインで会議をするところなの。ここで紅茶なんて初めて。野崎さん良かったね。こんなこと、普通は出来ないよ?だって、基本、役員以外は使用できないし。」 「…はい。」 …あれ? 何だか予想と違う反応。 さっきまでの様子だと、もっと感動とかしちゃうのかと思ったのに。 …私、一人でちょっと感動なのに。 「…野崎さん、どうか…した?」 私の話にどこか上の空の彼女に言葉をかけた。 私の言葉に野崎さんは視線が少し踊って、瞬きが多い。 そんな彼女が口にしたのは 「あの、…さっきの方って…。」 「さっきの?室長のこと?」 「『室長』?」 「うん。秘書部の…そうだね、他の部署で言ったら部長に当たる人。菊森室長だよ。」 「…菊森…室長。」 彼女はその名前を呟きながら、まるで自分を落ち着かせるように紅茶をゆっくりと飲んだ。 「…室長が…どうかした?」 察しの悪い私はこんな質問をさらりとしてしまう。 全く恋愛偏差値が低いのだ。 でも、こんな私でも次には気付かざるを得ない。 「え、あ、べ、別に何でもないです。ただ、あの、少し、びっくりして。」 「…ビックリ?」 「だって…すごく素敵な人だったから。」
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!