雲行き-1

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渉さんに会いたくなった。 …顔を見るだけでいいから。 渉さんは今は奥の社長室。 いきなり行ったら変に思われる。 何か口実をみつけて…。 私は急にそわそわし始めた。 …渉さんに会いたい。 口実を考えようとするのに頭の中は渉さんのことでいっぱいでいい案が思い浮かばない。 もどかしさでキーボードの端を両手の薬指で小さく引っかいていた。 その時。 私のデスクの内線が鳴った。 小刻みに動いていた指も止まり、意識が一瞬にしてその音に奪われる。 電話のディスプレイは… 『シャチョウシツ』 私は受話器に飛びついた。 「…はい。桐谷です。」 受話器を取った勢いとは逆に、声は震えそうだった。 『俺だ。頼みたいことがある。来てくれ。』 「はい。」 返事をした時には、私はもうイスから立ち上がっていた。 「社長室に行ってきます。」 誰とも目を合わさず、ただ室内にその言葉を置き去りにして私の足は社長室に駆け出していた。
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