雲行き-1

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電話の相手はこれから会うことになっている先方の秘書だった。 約束の時間通りによろしくというものだった。 約束の時間までは一時間半もない。 移動時間を考えると、後20分ほどで出なければならない。 今作成している資料はさっき直前でデータの差し替えがあったものだ。 営業から連絡があったが、既に時間がないので、最終チェックをする俺が作った方が早いと判断した。 「…こちらこそ、よろしくお願いします。」 電話を終えた俺の顔を心配そうに見つめるアイツ。 「М社の…って、4時半お約束でしたよね?…もしかして…この資料…?」 「そうだ。差し替えだ。」 「え、あ、じゃあ、急がなきゃ。」 アイツは急に慌てだした。 「すぐに掛かります。」 アイツは資料を手にして俺の脇の秘書用のデスクに体を向けた。 「おい。」 俺はアイツの手を引いた。 「早く続きを言え。」 「とにかく、これを仕上げないと。」 俺はその言葉を聞いてアイツの手を離した。 …ダメだ。顔つきが完全に秘書に戻ってる…。 しかも、マジで時間がねえ。 「続き、後で必ず聞くからな。」 そう言った時には、もうアイツは真剣な表情でマウスをカチカチと動かし始めていた。
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