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「また、ゆっくりね。」
「…はい。」
野崎さんに笑顔を向けると、彼女も笑顔で返してきた。
エレベーターの扉が閉まり、中の箱がゆっくりと動き出す。
私は社長の出掛けの準備のために秘書室に戻った。
秘書室では室長が作業を終えて、お昼に出るところだった。
「彼女は満足したかな?」
室長の言葉に私は少し間を置いて答えた。
「…はい。…とても。」
「よかったな。じゃあ、この資料、社長に頼むよ。」
室長に出来上がったばかりの資料を手渡された。
私は少しだけぼやっとしていた。
「…どうした?ぼーっとして。熱でもあるのか?」
室長がそっと手の甲で私の頬に触れた。
「だ、大丈夫です、何でもないんです。すみません。」
私は室長に早くお昼に行くように促して、準備に掛かった。
でも…
その手が止まる。
野崎さんの中に芽生えた気持ち…。
室長の私に対する態度…。
私の頬からは…
すっかり熱が冷めていた。
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