雲行き-1

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ぼんやりとしながらも時計を気にして、渉さんの外出の準備をする。 持って行く資料と頼まれていた菓子折り。 先方の会長のお気に入りの洋菓子だ。 普段は手土産は持参しないけれど、懇意にいいお付き合いをしてくれてる相手には、時にこうやって感謝を示す…というのが会長流で、それを渉さんも引き継いでいる。毎回ではなく、たまに。というのがポイントらしい。…感謝の気持ちを忘れてないってことが伝わるように。 私が社長室のデスクにそれを丁寧に置いた時だった。 廊下を急ぐ足音が聞こえるとほぼ同時に社長室のドアが勢いよく開いた。 「準備出来てるか。」 「はい。」 「別件で先に寄るところが出来た。少し遅れるかもしれない。先方に連絡して丁寧に詫びといてくれ。出来るだけ急いで行く。」 「はい。」 「見送りはいい。走って行く。…お前、どんくさそうだし。」 「え。」 「行ってくる。」 「はい。…いって…」 …らっしゃいませ。 を言い終わらない内に、渉さんはドアの向こうに消えていた。 『見送りはいい。』 …いつもなら… キス… …するのにな。 …なんて。 プライベートと仕事を区別出来なくなってるの… …私の方なのかもしれない。
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