雲行き-1

39/40
前へ
/40ページ
次へ
連休前のこの週は、連休までに片付けなければならないことがたくさんあって、毎日を忙しく過ごしていた。 でも忙しくても体は少しも辛くなかった。 これがナントカの魔法だってことを 私は少しずつ実感し始めていた。 私の連休の予定も決まった。 佐和子さんが私を気遣ってくれて、私は連休の前半を遠野邸で過ごし、お盆にかかる後半を実家で過ごすことにした。 お盆には亡くなった人の霊が帰ってくる。 父を亡くしている私には毎年、特別な日でもあった。 佐和子さんは父のことは知らないはずだから、渉さんや会長が口添えをしてくれたのかもしれない。 明日の連休初日は佐和子さんもまだ居てくれて、仕事で言う“引継ぎ”をしてくれるというので渉さんの家に行くことになっていた。 金曜の仕事を終え、私は理央と奈美と一緒に秘書室を出た。 それは、たまたま三人の仕事が同じくらいに終わったからだったけれど、今日ばかりは室長と二人きりになることがなくて…少しだけホッとしていた。 狭いエレベーターの中で、理央と奈美の声はよく響いていた。 私はもっぱら相槌係で二人の会話を陰で盛り上げる。 エレベーターを降りて、大きな正面玄関を抜けると…。 「…あれ?」 三人並んでいた中で、私だけが立ち止まった。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2844人が本棚に入れています
本棚に追加