雲行き-2

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佐和子さんと裏口で待ち合わせ、私たちは佐和子さんの車で出発した。 車の窓越しに注ぐ日射しは強く、真っ青な空には入道雲。 夏休みの絵日記にでも描きたくなるような景色だった。 「いい天気ねえ。少し良すぎるくらいね。日に焼けちゃう。」 佐和子さんがハンドルを傾けながらいつもよりも陽気に話す。 渉さんや会長がいないせいか、言葉もいつもより柔らかい。 きっと… 俯(ウツム)き加減な私を気遣ってのことだろう。 「…ホント。これじゃあ焦げちゃいますね。」 私は外の景色から視線を外して、腕をさすりながら明るく言った。 …元気出さなきゃ。 「桐谷さんは色白だもの。少しくらい焼けても大丈夫よ。私が焼けたらすぐにシミになっちゃうから。」 「ええ?私だってシミになりますよ。」 「桐谷さんは大丈夫。」 「大丈夫じゃないです。」 「女って…。」 「大変ですよね…。」 車の中は私たちの笑い声でいっぱいになった。 そうだ。 夏の日射し 夏の空。 これから夏休みが始まるんだから、しょげててどうする。 渉さんだって言ってたじゃない… 『少しおあずけ』だって。 少しだけ… おあずけに なっただけだよね? 私は自分を納得させるように、何度も小さく頷いていた。
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