2614人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「ただいま戻りました。」
最初にサワさんが入って、その後に買い物袋を提げたアイツが入ってくる。
「行ってまいりました。」
アイツは俺に会釈して報告のように小さな声で言った。
『社長と秘書』
俺の言いつけをちゃんと守っているらしい。
「おかえりー。」
そんなアイツに大塚はオーバーなリアクションでそう言った。
顔には相変わらずの卑(イヤ)しい笑み。
コイツの視線が望愛に向けられると思うだけでイラついた。
「サワさん。買い物が片付いたら明日からのこと桐谷に教えといて。風呂とか掃除とかいろいろ。俺たちのことは放っておいていいし。」
「かしこまりました。」
買い物袋のガサガサする音の向こうで、サワさんとアイツの会話が聞こえる。
「じゃあ、お風呂から見に行きましょうか。」
「はい。」
内心ホッと胸を撫で下ろす。
が、
「その前に、渉の秘書ちゃん!冷たいものおかわりもらっていい?喉乾いちゃって。」
大塚はキッチンに向かって大きな声をあげた。
「今、お持ちします。」
アイツの返事が聞こえた。
「お待たせしました。」
アイツがテーブルにアイスコーヒーを出す。
その間にも大塚は舐めるように望愛を見つめているが当のアイツは全く気付いていない。
「ねえ…。『秘書』って、なんか響きが色っぽいよね。会社でいてさあ、なんか変な雰囲気とかにならないの?」
「ならねえよ。コイツは趣味じゃねえし、仕事でそれどころじゃねえし。現実はドラマみてえじゃねえんだよ。桐谷、もう行っていい。」
「…はい。」
大塚はアイツの後姿を目で追いながら唇を舐めた。
「…渉、いつからそんなに我慢強くなったんだよ?…俺なら…我慢できないなあ…。」
最初のコメントを投稿しよう!