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しかし…、
肝心の親父の帰りが思ったより遅くなり、キッチンでは一通り家の中を案内されたアイツとサワさんでもう夕飯の準備が始まっていた。
おまけに大塚は勝手にワインを持ち出して飲み始めている。
「迎えに来させるし、いいじゃん。」
…親父同士の関係のために、ここまで俺がコイツに我慢する意味があんのかよ…。
俺は最初はマネごとのつもりでパソコンを開いていたが、大塚を無視して本格的に作業を始めた。
「なんだよ、つまんねえな。あ、そうだ!秘書ちゃーーん!ちょっと来て!」
「何なんだよ。」
大塚は俺を無視してキッチンを向いたままだった。
すると、キッチンからアイツが小走りでやって来た。
「…はい、何でしょうか?」
「んふ。エプロン姿もかわいいね。渉が俺のこと全然相手にしてくれないから君が相手してくれる?ね、ここ座って。」
大塚は片手にグラスを持ったまま、もう片方の手でアイツの腕を掴んだ。
大塚のヤツ…酔い始めている。
「やめろ。」
思わず低い声が出た。
「なんだよ。お前が俺をほっとくから悪いんだろ?」
「…わかった。付き合うからコイツはいいだろ。コイツがいないとサワさんが困る。桐谷、もう行け。」
「は…。」
「ちょっと待った。一杯くらいついでって。ね、早く。ここに座って一杯だけ。」
大塚は掴んだ腕をそのまま引いて、無理矢理にアイツを自分の隣に座らせた。
引かれた勢いでアイツの体がソファの上で少しだけバウンドした。
「…わかりました。一杯、おつぎいたしますね。」
アイツは慣れない手つきでワインを大塚のグラスに注いだ。
二人の距離に…気付かれないようにまた奥歯を噛んだ。
大塚の視線がアイツの唇…その下の胸元に向けられているような気がした。
「今日は高級クラブには行きそびれたけど、…こういうのもありだね。エプロン姿で…って。かなりいいかも。」
大塚はそう言って視線をアイツに残したままワインを一口飲んだ。
その姿は野獣でもモンスターでもなく…
ただの獣のように思えた。
アイツが上半身を逸らすように大塚を避けた時、キッチンからサワさんの声が通る。
「あら、やっと旦那さまのお帰りだわ。」
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