雲行き-3

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その時。 お風呂の向こうのトイレに向かって足音が聞こえてくる。 遠慮のない大きな足音の持ち主は彼しかいない。 渉さんは私の耳元で囁(ササヤ)いた。 「さっきの親父の言いつけ、ちゃんと守れよ。親父の言いつけだが俺との約束だ。いいな?」 「はい。」 私も声を潜(ヒソ)ませた。 「いい返事だ。」 渉さんが目を細めて笑った。 …うそ。 お酒は飲んではないけれど、私の頬は赤く染まる。 「小ヤギを食べるのはオオカミじゃない。モンスターだ。」 渉さんは最後にそう言って、廊下に聞こえるように大きな声で付け足して脱衣所を出た。 「せいぜい溺(オボ)れんなよ。」 私はドア越しに渉さんと大塚さんの会話を聞きながら、脱衣所のドアの鍵を確認して服を脱ぎ始めた。
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