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その時。
お風呂の向こうのトイレに向かって足音が聞こえてくる。
遠慮のない大きな足音の持ち主は彼しかいない。
渉さんは私の耳元で囁(ササヤ)いた。
「さっきの親父の言いつけ、ちゃんと守れよ。親父の言いつけだが俺との約束だ。いいな?」
「はい。」
私も声を潜(ヒソ)ませた。
「いい返事だ。」
渉さんが目を細めて笑った。
…うそ。
お酒は飲んではないけれど、私の頬は赤く染まる。
「小ヤギを食べるのはオオカミじゃない。モンスターだ。」
渉さんは最後にそう言って、廊下に聞こえるように大きな声で付け足して脱衣所を出た。
「せいぜい溺(オボ)れんなよ。」
私はドア越しに渉さんと大塚さんの会話を聞きながら、脱衣所のドアの鍵を確認して服を脱ぎ始めた。
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