雲行き-3

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「ね、桐谷さんも飲みなよ?」 大塚さんの言葉は私だけじゃなくて、渉さんの感情も逆撫(サカナ)でする。 「コイツは飲まねえよ。てか、今は一応仕事に入るんだから飲ませんな。」 「…渉。何も仕事ではないだろう。」 「親父は黙ってろ。」 …やだ。 こんな雰囲気。 「…すみません。社長のおっしゃる通りですので。…ご馳走様でした。私はこれで。キッチンにおりますので何かあったらお呼びください。」 私は同席したものの、渉さんのことが気になって思うように食事が喉を通らなかった。 ほとんど空腹のまま私は席を立った。 キッチンでは、無事に食事が終わることをひたすらに祈っていた。 なのに… 食事の終盤。 その願いも打ち消されてしまう。 「はあ。結構酔っちゃったな。」 「大丈夫かな。」 「すみません、会長。…少し横になっても構いませんか…?」 「ああ、もちろん。」 「少し休んだらハイヤーでも何でも呼んでやるよ。桐谷、水を持ってこい。」 「はい。」 私は一杯の水を手にダイニングのテーブルに戻った。 それを大塚さんに手渡した。 「ありがとう。」 その時、彼はグラスを掴もうとしながら私の手を握った。 大きな手は私の手をすっぽりと包んだけれど、私の手からはグラスが滑り落ちた。
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