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「ね、桐谷さんも飲みなよ?」
大塚さんの言葉は私だけじゃなくて、渉さんの感情も逆撫(サカナ)でする。
「コイツは飲まねえよ。てか、今は一応仕事に入るんだから飲ませんな。」
「…渉。何も仕事ではないだろう。」
「親父は黙ってろ。」
…やだ。
こんな雰囲気。
「…すみません。社長のおっしゃる通りですので。…ご馳走様でした。私はこれで。キッチンにおりますので何かあったらお呼びください。」
私は同席したものの、渉さんのことが気になって思うように食事が喉を通らなかった。
ほとんど空腹のまま私は席を立った。
キッチンでは、無事に食事が終わることをひたすらに祈っていた。
なのに…
食事の終盤。
その願いも打ち消されてしまう。
「はあ。結構酔っちゃったな。」
「大丈夫かな。」
「すみません、会長。…少し横になっても構いませんか…?」
「ああ、もちろん。」
「少し休んだらハイヤーでも何でも呼んでやるよ。桐谷、水を持ってこい。」
「はい。」
私は一杯の水を手にダイニングのテーブルに戻った。
それを大塚さんに手渡した。
「ありがとう。」
その時、彼はグラスを掴もうとしながら私の手を握った。
大きな手は私の手をすっぽりと包んだけれど、私の手からはグラスが滑り落ちた。
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