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走りながら空の雲行きに顔をしかめた。
今にも雨が降り出しそうだった。
日射しはきつくないが、じっとりとした空気が体を包む。
その中を少し走っただけで汗でTシャツの色が変わっていた。
『望愛…。』
『望愛…。』
『どこにいる…。』
『望愛…。』
心の中では何度も呼んでいるのに、声には出せなかった。
走ったせいで喉がカラカラに乾いているのに加え…
アイツがいなくなった恐怖で喉が潰れそうだった。
…恐怖。
まさに俺は恐怖を感じていた。
アイツを失うかもしれない…
それは俺にとって
恐怖と不安でしかなかった。
「…望愛。」
小さく呟いた時だった。
ポツ。
ポツ。
ポツ。
「クソッ。」
雨だった。
空を見上げる。
灰色の空からは無数の滴(シズク)が落ちて俺の顔を濡らした。
拳(コブシ)を握る。
この空は…アイツだ。
アイツもきっと、こんな風に泣いている。
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