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私はそんな風に雨を見つめて、少しだけ体を動かした。
雨がひどくなる前にここから移動したほうがいいかもしれない。
私は考えを巡らす。
手ぶらで出てきてしまったので、携帯もお金もない。
自分のアパートに戻るにも鍵がないので入れない。
…どうしよう。
渉さんの家に…帰る…。
それは無理だった。
会長もいないあの家で、渉さんと二人きりになることは…
とてもできそうにない。
そんな強靭(キョウジン)な精神力があったなら、もともとこんな風に逃げ出したりもしていないだろう。
たしか…
アパートの近くに管理人さんが住んでいるはず。
私は詳しく知らないけれど、アパートの住人の誰かは知っているかもしれない。
管理人さんに会えれば鍵を貸してもらえる。
こんなことを考えて、本当に子供みたい。
…わかってる。
荷物を取りに帰って、顔を合わせてもしれっとして家を出ればいい。
だけど、私はそんなことができるほど大人でもない。
強くもない。
今は…
渉さんの顔さえも見れないの。
私は土管を抜け出した。
冷たい雨は
私の髪にも肩にも
落ちてきて…
私を寂しく濡らしていた。
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