最後の試練-1

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「…私のアパートまで…お願いできますか?」 私は室長のハンカチで髪の毛を拭きながら沈黙を破った。 静かな車内では小さな声でも室長には十分届いた。 「…アパートに戻ってどうするつもりだ?…手ぶらじゃないか。」 「…アパートの近くに管理人さんが住んでるはずなんです。アパートの誰かに聞けばわかるかもしれないですから。そしたら…鍵を借りて…。」 「そんなことをしてる間に風邪を引く。とにかく体を温めないと。」 「…大丈夫です。」 そう言いながら体は夏だというのに震えている。 夏でもこうなってしまうと体は芯から冷えてしまうらしい。 室長は…エアコンを切っていた。 室長にとって車内は蒸し暑いはずなのに、何も言わずにそうしてくれていた。 「大丈夫ですから…。」 もう一度言ったけれど 一度目も 二度目も… 聞こえているはずなのに 室長は返事をしなかった。
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