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「…私のアパートまで…お願いできますか?」
私は室長のハンカチで髪の毛を拭きながら沈黙を破った。
静かな車内では小さな声でも室長には十分届いた。
「…アパートに戻ってどうするつもりだ?…手ぶらじゃないか。」
「…アパートの近くに管理人さんが住んでるはずなんです。アパートの誰かに聞けばわかるかもしれないですから。そしたら…鍵を借りて…。」
「そんなことをしてる間に風邪を引く。とにかく体を温めないと。」
「…大丈夫です。」
そう言いながら体は夏だというのに震えている。
夏でもこうなってしまうと体は芯から冷えてしまうらしい。
室長は…エアコンを切っていた。
室長にとって車内は蒸し暑いはずなのに、何も言わずにそうしてくれていた。
「大丈夫ですから…。」
もう一度言ったけれど
一度目も
二度目も…
聞こえているはずなのに
室長は返事をしなかった。
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