最後の試練-1

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ドアを開けて彼女を促すが、彼女は一歩も動かない。 濡れた体で立ち尽くし、唇を噛みしめて俯(ウツム)いていた。 「入りなさい。」 もう一度声を掛けたが彼女は動かなかった。 代わりに俯いていた顔を上げ、か細い声でこう言った。 「…すみません。お金を…。お金を貸して下さい。」 一瞬、耳を疑った。 けれど、彼女の大きな瞳から溢れ出す涙を見ると… 何も言い出せなかった。 しかし… これだけは確かめたかった。 そうでなければ俺も前に進めない。 「…渉じゃなきゃ…ダメなのか?」 彼女の瞳からはさっきよりも大粒の涙が幾重も流れ出た。 それを彼女は子供みたいに手でゴシゴシと拭った。 そして何度も小さく頷いた。 「…はい。」 声にならないほどにか細い声とは逆に、涙で濡れた瞳の奥には強い意志が込められていた。 「…待っていなさい。」 冷静ぶっていたが、 喉から声を絞り出さなければ言葉に出来ないほど… ダメージは大きかった。 俺はドアを開け放ったまま、彼女をその場に残して奥へ入った。
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