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ドアを開けて彼女を促すが、彼女は一歩も動かない。
濡れた体で立ち尽くし、唇を噛みしめて俯(ウツム)いていた。
「入りなさい。」
もう一度声を掛けたが彼女は動かなかった。
代わりに俯いていた顔を上げ、か細い声でこう言った。
「…すみません。お金を…。お金を貸して下さい。」
一瞬、耳を疑った。
けれど、彼女の大きな瞳から溢れ出す涙を見ると…
何も言い出せなかった。
しかし…
これだけは確かめたかった。
そうでなければ俺も前に進めない。
「…渉じゃなきゃ…ダメなのか?」
彼女の瞳からはさっきよりも大粒の涙が幾重も流れ出た。
それを彼女は子供みたいに手でゴシゴシと拭った。
そして何度も小さく頷いた。
「…はい。」
声にならないほどにか細い声とは逆に、涙で濡れた瞳の奥には強い意志が込められていた。
「…待っていなさい。」
冷静ぶっていたが、
喉から声を絞り出さなければ言葉に出来ないほど…
ダメージは大きかった。
俺はドアを開け放ったまま、彼女をその場に残して奥へ入った。
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