2272人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女の小刻みに震えた体を抱き締めてやりたいのに
彼女の強い意志を目の前にして、それも出来ない。
どんな方法でも、強引に彼女のカラダを温めてやりたいのに
彼女の揺るがない気持ちがそれを許さない。
何より…
自分が後悔することよりも、彼女を後悔させることの方がずっと怖かった。
俺は腑抜けた精神で何とか彼女の為に準備をして玄関に戻った。
まずはタオルを渡す。
「とにかく…拭きなさい。ここに私のシャツと実家に帰れるまでに必要なお金を入れてあるから…。着いたら必ず連絡しなさい。」
桐谷君はまだ泣いていた。
俺の渡したタオルで雨を拭いながら、目元を何度も抑えていた。
「私の携帯のメモも入ってる…。困ったら何時でも連絡してきて構わない。何時でも来てもらって構わない。」
彼女がそうしないとわかっていても、彼女の最後の救いになりたかった。
彼女に傘を手渡す。
「桐谷君…。こんな時に言うのは卑怯だってわかってる。だけど、言わせて欲しい…。君が…好きだよ。」
彼女は嗚咽をあげて、ひたすらに泣いていた。
とても言葉を発せられる状態ではなかった。
俺は返事をもらう代わりにもう一度彼女に聞いた。
「…部屋に…入るか?」
彼女はタオルで顔を覆いながら大きく首を横に振った。
それが…
彼女の答えだった。
最初のコメントを投稿しよう!