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駅に着き、タクシーが止まる頃には、私は徐々に落ち着きを取り戻していた。
料金を支払おうと、室長から渡された袋の中から封筒を取り出した。
中には3万円が入っていた。
このタクシー代と私の実家までの電車賃を考えてもかなり多い金額だった。
私は中から一万円札を出して運転手に渡し、おつりを受け取った。
タクシーを降りて、立ち止る。
封筒の中にはお札と一緒に一枚のメモ紙が入っていたのだ。
中から出したメモ紙には、見慣れた室長の文字が並ぶ。
急いで書かれたことが一目でわかった。
『駅前で洋服を買いなさい。そのままじゃ風邪を引く。』
室長…。
多目に入れてくれたお金はこのためだった。
私は室長の言うとおりに駅前の店に入り、安いワンピースを買った。
店員さんも私の姿に察してくれ、店内で着替えをした。
それから駅に向かい、電車に乗った。
心は渉さんに向いているのに、
離れていく私はどうかしている?
今すぐに戻って好きだと伝えればいい…。
でも…
私は気付いてしまった。
恋愛偏差値ゼロの私が。
好きな人の前では
女は意地になったりもするってこと。
本当は今すぐにでも会いたいのに…
本当はすぐにでもすがりたいのに…
迎えに来てくれるのを期待してしまう。
私は怒ってるのよって演じてしまう。
本当は…
とっくに許してるのに。
電車の車窓。
流れる景色。
今度は渉さんを想って涙が流れた。
渉さん…
早く私を見つけて。
私が本当に必要なら…
どうか私を迎えに来て。
ねえ、渉さん。
今夜は私をあげるって…
…約束したでしょ。
涙を拭きながら
心の中では何度も何度も
渉さんを呼んでいた。
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