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桐谷君を見送り、一人部屋に戻ると見慣れた自分の空間を無意識に見回していた。
彼女がもう少し弱い女性なら…
今頃はここで二人で体を温め合っていたかもしれない。
そう思うと、空しくて…
…悔しかった。
彼女はもう少し弱い女だと思っていた。
なのに…
あんな姿になってまで
渉のことを想って必死だった。
本当に悔しいが…
勝ち目はなさそうだった。
なら…
渉。
早く彼女を見つけてやれ。
早く…
彼女を救ってやれ。
俺は携帯を手にした。
渉の番号を表示させる。
けれど
発信ボタンは押さなかった。
これは彼女が望んでいないんじゃないかって。
俺が連絡して渉が彼女を迎えに行ったって意味がない。
渉が彼女があんなにも想うほどの男なら
自力で見つけてみろ。
もしも、それで渉が彼女を取り戻せたら…
俺も本当にあきらめがつくかもしれない。
俺は携帯を置いた。
窓の外ではさっきまで激しかった雨音が徐々におさまり…
静かな雨へと変わっていた。
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