最後の試練-1

26/40
前へ
/40ページ
次へ
桐谷君を見送り、一人部屋に戻ると見慣れた自分の空間を無意識に見回していた。 彼女がもう少し弱い女性なら… 今頃はここで二人で体を温め合っていたかもしれない。 そう思うと、空しくて… …悔しかった。 彼女はもう少し弱い女だと思っていた。 なのに… あんな姿になってまで 渉のことを想って必死だった。 本当に悔しいが… 勝ち目はなさそうだった。 なら… 渉。 早く彼女を見つけてやれ。 早く… 彼女を救ってやれ。 俺は携帯を手にした。 渉の番号を表示させる。 けれど 発信ボタンは押さなかった。 これは彼女が望んでいないんじゃないかって。 俺が連絡して渉が彼女を迎えに行ったって意味がない。 渉が彼女があんなにも想うほどの男なら 自力で見つけてみろ。 もしも、それで渉が彼女を取り戻せたら… 俺も本当にあきらめがつくかもしれない。 俺は携帯を置いた。 窓の外ではさっきまで激しかった雨音が徐々におさまり… 静かな雨へと変わっていた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2268人が本棚に入れています
本棚に追加