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雨の高速道路。
スピードの増す車。
車を運転している間、ただひたすらにアイツのことを想っていた。
アイツのことしか考えられなかった。
『渉さん。』
『渉さん。』
『渉さん。』
俺の中では笑ったアイツが
何度も、何度も
俺を呼ぶ。
「望愛…。」
女の名前を呟いちまうなんて
俺はどうかしてるのか。
雨を避(ヨ)ける忙(セワ)しないワイパーの動きが俺の焦る気持ちと重なった。
ハンドルを握る手には熱がこもり、アクセルを踏み込む足にも力が入る。
あの川はアイツと一度行っただけ。
地元の者にしかわからないような道にも入ったはずだ。
でも、俺は
少しも忘れてなんかいなかった。
迷いもなく
頭の中で地図を描き、
俺はあの時の道を
あの時、アイツと進んだ道を
アイツのことだけを想って
進んだ。
望愛…。
…会いたい。
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