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それから新たに知った君のこと。
夜中に目を覚ましてはわけもなく泣いていること。
僕は眠らなくてもいいから…というか、正確に言えば眠ることができないのだけど…。
毎晩のようにうなされて泣いている君がつい、愛しくて…放っておけなくて。
止めておこうと思ったのに。
結局我慢できなくて、手を差し伸べた。
あの公園で君が僕にしてくれたように。
「恐い夢でもみたの?」
君は、うぅん。と首を振って
「よく…わかんない。ただ…悲しくて…。」
あいまいに微笑んだ。
薄暗い部屋の中、眠っていると誰かがほほをなでる。
愛しそうに。
そして君の名を呼び、苦しく切なそうに何かをささやくのだそうだ。
何を言っているのかは聞こえない。
まるで自分がその言葉を聞くのがいやなんだと思うと、君はいったね。
「何もわけが分からないまま、全部が消えてしまうの…それが、悲しくて…」
それが、君を悲しみの海へ引きずり込んでいく夢。
僕はただ何もいえず、君の髪をなでた。
変わらない、栗色の…柔らか髪を。
君はうれしそうに目を細めて微笑んだ。
潤んだ瞳が薄闇に煌いた。
…残っているのだ。
君の記憶の片隅
あの悲しい残像が。
緋色の砂となって消えたはずの
過去の残像が。
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