1069人が本棚に入れています
本棚に追加
「酒は得意じゃなくてもビールぐらい飲めんだろ」
「ええ」
男は空いていた奥のカウンターに場所を取る。炭の煙、男達の汗や皮脂の匂い、熱燗の湯気。でも私の鼻を突くのはセンセイの残り香だ。
何故センセイは引き止めたか……。センセイはひょっとして私に気があるのかとも考えた。でもそれは明白な自惚れだ。
届いた生ビールを煽る。先にジョッキを空けたのは男ではなく私だった。
「ペース遅いじゃない」
「まあ、このあとのお楽しみがあるからな」
「……」
私は追加注文をし、更にビールを飲む。センセイが私に気があるなら、本当に引き止めてただろう。男の筋肉質な腕に怯んだのだ、きっと。暴力沙汰になったら高尚な身分に差し障る。指に怪我するようなことがあれば歯科医師として死活問題だ。
最初のコメントを投稿しよう!