年末年始

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年末年始

「詩織はスイスだったかな?」 「はい。糸井コーポレーションのご令嬢と一緒です」 そう答えると、 「それなら安心だ」 政成はそう言って日本酒を煽る。 「しかし、年末年始とも詩織がいないのは寂しいなぁ? 恭」 そんな台詞には「そうですね」としか答えられず、恭は少し苦い笑いを浮かべた。 「お時間が取れるのでしたら、行かれてみては? 女性専用のスパらしいですけど、近くにホテルもあるようですし」 そう恭が提案すると、政成は「いやいや」と頭を振る。 「そうもいかん。今、合併話が浮いた状態だからな、なんとしても年明けには纏めてしまいたい」 娘には甘いがそれでも大企業のトップ。 私事よりも公務が優先される。 それが分かっているから、恭は何も言わず炭酸水を飲み干した。 「何歳になった?」 「俺、ですか?」 「ほかに誰がいる?」 そう言われて恭は苦笑しながら「18です」と答えると、政成は「そうか」と日本酒を煽る。 「あと、2年経ったらお前と酒を飲み交わすことができるのか」 そう言って笑う政成に恭は何も返さずに薄く笑った。 「ん? 鈴花さん、日本酒を」 空になったお銚子を差し出したのに。 「旦那様、いい加減飲みすぎですよ? 先生にも日本酒は1合までと言われてるはずです」 「あぁ、鈴花さん。でも昨日もおとついも飲んでない。だったら今夜は3合飲んでも――」 「ダメです」 ピシャリとそう言われ政成は掲げたお銚子をテーブルに。 「仕方ない。それなら久々に将棋でも指そうか?」 そんな台詞に恭は瞳を細める。 「まだ酔ってないしな!」 そう政成が言えば 「書斎のウィスキーは片付けましたから」 なんて冷やかな鈴花の声に 「いつの間に!?」 と言う政成の驚愕の声がダイニングに響いた。
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