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パチンと響く駒の音。
将棋盤は薩摩黄楊。
駒は人間国宝が彫ったとか何とか。
けれど政成は惜しげもなくそれを使う。
「使わなければ持ている意味がないだろう?」
そんな彼だが、将棋に強いわけではなくただの趣味。
パチンと響く音は清らか、指ざわりも申し分ない。
だけど、
息苦しい――。
「もう来年は卒業か」
ありきたりの質問に「はい」と答えて駒を進める。
「詩織は恭がいなくなっても大丈夫そうかな」
その真意が分かるから、
恭の指は少し止まり、そして飛車を前に飛ばした。
「糸井様のご令嬢がついてますから。彼女はしっかりしてますし、安心していいかと」
政成は盤をじっと見つめて「うーん」と唸る。
そして、歩に手をかけて、
「事情が変わった。『桜塚』のネットワークは広い」
パチンと音を鳴らした。
恭はその音に瞳を細める。
『桜学園』には日本の上級社会に住む子供が通う。
いずれ社会に出た時のネットワークを得るために。
それらをすべて懐に入れている『桜塚』のネットワークはさらに広い。
政治の世界から金融、ゼネコンに商社、ありとあらゆる場所に伝(つて)を持つ。
そのトップにいずれ立つのが、
『宮城彬』、いや『桜塚彬』
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