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「確かにテルの腕力はたしたものだ。だが、格闘技の教官があれほどたやすく肘関節を決められるとは思えない。襲撃者は教官ではなかったと、ぼくは思う」
「ぼくも同じ考えだ。生徒にむけて、夜間戦闘用のナイフなんか振り回すはずがない」
草のうえに落ちていた黒いナイフを思いだす。中央に刻まれた溝は血抜きのためだった。出血多量で速やかに敵を倒す、殺すためのナイフだ。テルがいう。
「じゃあ、やっぱり生徒か。タツオは狙われてるんだもんな」
サイコとスリランの忠告を思いだした。誰かが自分の命に「照準」をつけている。真剣に誰かが殺したいと計画しているのだ。それは足元の大地が薄い氷にでもなったような寒々とした感覚だった。一歩踏み誤れば、氷は割れて暗い海にのまれるかもしれない。
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