04.「俺にしとけ」

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『んじゃ、後で行くから』 そう言って合コンに向かった健。 『あ、健』 『なに?』 『あ…あんまり飲み過ぎないようにね』 『分かってるって』 呼び止めた俺は振り返った健に本当の気持ちも言えずにその後ろ姿を見送った。 今日はバイト先で逆ナンされた年上お姉さん達とだって言ってた。 『待ってる』 なんて言わないよ。 重いのは嫌いでしょ? 健がどこで誰とナニしようと、俺は平気だよ。 今まで平気だったんだから、そんなの平気に決まってる。 だから健の好きにすればいい。 すっぽかされたって、俺はいいから。 「おい、野々宮」 「てんちょー、おはようございます」 バイト先の厨房でポテトが揚がるのをひたすら見つめてた俺に、店長が声をかけた。 そんな店長にペコリと頭を下げて挨拶する。 俺だっていつも逃げ回ってるわけじゃない。 それに逃げ回る元気もない。 今日が暇で良かった。 「おまえ、最近大丈夫か?」 ふえ? 「え?あ、はい?なんですか、それ?大丈夫ですけど」 ちょ、びっくりした。 そっか、そーいえば前西軌くんが言ってたっけ。 店長が心配してるって。 で、何?周りから攻めていってもシッポが掴めないから直接本人に聞こうって? この弱ってる時に、この悪魔め! だーれが弱みなんて握らせるか! 「あっと、オレンジジュース持ってくの忘れてたー!やっべー、怒られるー!」 わざとらしく大声を上げて、いかにも忘れてたフリをする。 ま、かなり怪しいけど、でも、この場から立ち去るには十分な理由にはなる。 「てんちょー、すいませんけど、ポテト宜しくお願いしまーす」 チャチャッとオレンジをグラスに注いで出ていこうとする俺の腕を、店長が勢いよく引っ張った。 おかげでバランスが崩れる。 え? あ? えー!! お盆に乗せたグラスがフラついてオレンジが宙に舞うのをゆっくりと見た気がした。 それと同時にサーと血の気が引く感じに襲われて視界が真っ暗になり、俺の意識は吹っ飛んだ。
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